2006/09/26 掲載

天下りの規制の撤廃は、公務の自殺行為。
腐敗と汚職がさらに増える恐れも。
2006年 9月25日
ジャーナリスト・前特殊法人労連事務局長  堤    和 馬

 「あらたな公務員人事の方向性について」と題して、中馬弘毅行政改革大臣は、9月15日、天下りの事後規制の強化をめざす「試案」を内閣に提案した。規制緩和と事後規制の流れに沿った、新たな公務員像にふさわしい再就職(天下り)のあり方の提起だ、という。この時期に天下りの事後規制を強化する内容の提案をするのは、道路公団や防衛施設庁などの官製談合事件の裏には、天下りがあることが白日のもとにさらさられ、天下り問題に対する何らかの対応が必要となったからだ。事後規制をあらたに創設して、退職後出身官庁への働きかけを罰則で禁止することや、これを担保するために監視機関を設けることは、官製談合事件が天下りしたOBたちの働きかけによって行われていたことから、極めて当然のことだ。

 しかし、今回の「試案」の背景にある考え方は、天下り規制を官製談合事件など犯罪に結びつくものだけに限定して、退職したあとの出身府省庁との接触を監視しようとするもので、官僚天下りに対する国民の見方が反映されていない。天下りを繰り返し(渡り鳥)、そのたびに、高額の給与、退職金を手にする、高級官僚を頂点とした天下りシステム、それ自体に国民の批判がある。独立行政法人や公益法人への天下りも、税金のムダにつながっていることがはっきりしたのが、(財)防衛施設技術協会への天下りだったのではないか。官僚天下りの背景には、政・官・財の癒着があり、富士の裾野のように広大なひろがりをもっていることを、国民は数々の官庁での汚職・腐敗事件を通じて知っている。このなかには、公益法人等も入っているというのが、国民の認識だ。

 そして、この「試案」の最大の問題は、官民の人事交流の障害だとして、国家公務員が離職後2年間は離職前5年間で係わりの深かった営利企業(民間企業)への再就職を禁止した規定を削除するという内容が盛り込まれていることだ。これは、天下り規制をなくし、自由化するという意味であり、決定的な問題である。

 天下り規制の削除(天下りの自由化)は、天下りをなくすことにつながらないばかりか、公務の公正性を大きく歪めることになり、腐敗・汚職が増える可能性さえもっている。国家公務員法第103条でなぜ、民間企業への天下りが規制されているのだろうか。

 憲法第15条は「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」としている。これをうけ、国家公務員法第96条でも「すべて職員は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、・・・」とされている。103条の規定は、これを担保するものであり、公務の公正性を確保するものでもある。 きのうまで、全体の奉仕者、公共の利益のために働いていたものが、きょうからは、取引関係の民間企業の役員となるなどということは、公務の公正性に疑問を持たれるから規制するものだ。だが、組織的にやることは、規制されない。今でも、各府省庁の人事担当の部署で再就職斡旋を組織的にやっている。天下り先を確保するために、関係企業の契約・受注、その他の便宜を図っている。なぜなら、民間企業は利益にならなければ天下りは受け入れない。だから、官製談合が行われるのだ。組織的に行う天下り先への猟官運動は、これまでどおりということになれば、なぜ、103条の規制が撤廃される必要があるのか。それは、組織的猟官運動を合法化することだ。これでは、公務の公正性が確保されないだけではなく、腐敗と汚職が深刻化する恐れさえある。

 この103条の規定に基づき、毎年人事院の天下り白書(再就職の承認に関する年次報告書)が公開され、国民は各府省庁の職員がどのような民間企業へ天下りしているのかを見ることができる。「試案」では、この民間企業への天下り実態がまったく国民の目から閉ざされてしまう。実態がわからなければ、国民の行政の監視は、大きく後退することになる。各府省庁がどのような民間企業と関係が深いのかを国民が知ることは、行政の公正性を確保するうえで極めて重要だ。  職員の側から見ても、天下り実態が国民に知られることによって、「全体の奉仕者、公共の利益」を自覚して職務に専念することとなるのではないか。要するにこの103条の規定があり、天下り先、氏名が公開されることによって、天下りを事実上抑制しているのではないか。事前規制を撤廃することは、公務の自殺行為である。 事後的規制の新設に加え、事前規制の強化と情報公開こそ必要だ。

 第一に、各府省庁による組織的再就職斡旋の禁止が必要だ。
 第二に、特殊法人、独立行政法人、政府持ち株会社(高速道路会社など)、地方自治体職員には、天下り規制を持たせることである。公団や地方自治体でも官製談合が摘発されていることを見ればわかることだ。
 第三は、公益法人を経由した天下りが税金のムダに繋がり、官製談合の背景のひとつとなっている実態がある以上、民間企業だけへの天下り規制ではなく、公益法人などへの天下り規制が必要だ。
 第四は、人事院規則にもとづく承認基準を厳しくすることだ。現行では、顧問や非役員は除かれ、よほどの取引額がない限り、天下りが承認されている。国民的常識に従い、例えば、国土交通省から建設会社への天下りができなくなる基準に改めることだ。
 第五は、国民の支配層を形成するためのキャリア制度を廃止することだ。退職後の特権的地位の温存が天下りの元凶となっている。これは、全体の奉仕者との関係でも見直しが必要だ。
以上
 
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