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2006年10月13日
三輪定宣氏(千葉大学名誉教授、帝京平成大学教授)
特殊法人労連学習会で三輪教授が講演された内容の抜粋を掲載します。
見出しは編集部がつけました。
教育基本法「改正」法案に反対する人
教育基本法「改正」は重大な政治問題となっており、日本の教育は戦後最大の危機に直面している。
教育学関連25学会長が、中教審答申直前の2003年3月、「教育基本法の見直しに対する要望」を発表した。その一節はこう述べている。
「教育基本法は、第2次世界大戦と日本の敗戦という未曾有の惨禍の中から、その反省に基づき制定されたものであり、地球時代にふさわしい人類普遍的理念を規定し、戦後の教育や社会の発展の大きな礎となりました。それは、時代や社会の変化を理由に、安易に改正されてはならず、これからの教育に生かすことが求められます」と。
「学問の自由」を尊重する学会が、政府の政策に批判的見解を発表することは稀であり、25学会の会長の統一見解は、戦後史の奇跡というべき出来事であった。
2006年8月26日、日本教育学会歴代会長名の「教育基本法改正継続審議に向けての見解と要望」を発表し、「廃案」を求めたが、それを支持する学会長は26名、それが呼びかける教育研究者の賛同署名は300名にのぼっている。(10月6日現在)
9月21日、東京地裁では「日の丸・君が代」強制事件に画期的な判決が下された。国家斉唱義務不存在確認等請求事件(裁判長難波孝一、原告401人、「予防訴訟」、懲戒処分:2006年3月現在、約345人)の判決文は次のように述べている。
「国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する義務のないことを確認する」「いかなる処分もしてはならない(ピアノ伴奏の同旨)」「本件通達および一連の指導は教育基本法10条に反し、憲法19条の思想・良心の自由に対し、公共の福祉の観点から許容された制約の範囲を超えている」
「改正」案の特徴
教育基本法「改正」案の骨格は、@反対の根強い「国を愛する態度」や「伝統」「公共の精神」などを強引に盛り込んだこと、A国家権力の教育への不当な支配の禁止、国民全体に対する教育の直接責任、教育行政の教育条件整備義務など、教育の国民主権原理を定めた教基法の真髄ともいうべき第10条を廃止すること、B「教育の目標」の詳細な規定とその実施体制である国の総合施策や「教育振興基本計画」の作成を義務付けたこと、などである。いいかえれば、「愛国心」をはじめとする教育内容の国家統制の強化と国民全体への責任、教育条件整備義務の後退が基本的特徴である。
それ以外の法案追加条項の多くは現行法にほとんど規定されており、または、必要に応じて法令に定めれば十分であり、それらは現行法の改正理由とはなりえない。「愛国心」規程を盛り込むための方便と見るべきであろう。
学習指導要領は「告示」という下位の行政立法であるが、「国旗を掲揚し、国歌を斉唱するよう指導するものとする」との記述が、学校行事での教員への国旗・国歌強制の職務命令、不服従教員の懲戒処分へと乱用されている。教育基本法に「愛国心」が盛り込まれるならば、その教育・強制が際限なく独走、拡大することは必至である。
教育の「基本法」の改正は、教育制度の土台の変更であり、学校教育法をはじめ現行法の全面的改変におよび、"戦後教育の総決算"の上に「愛国心」教育体制が復活・確立し、教育の「構造改革」が完成する。
戦後の政府の教育改革は、一貫して露骨な教育基本法形骸化であり、民主的教育原理は敵視され、意図的に棚上げされてきた。例えば、教育行政の任務として規定された教育の機会均等(3条)、教育条件整備(10条)は軽視され、主要国最悪の教育予算(OECD平均5.1%、日本3.5%、30カ国最低、2002年)、学級規模、学費・奨学金などの事態を産みだしている。教育改革に取り組むなら、劣化した教育条件整備に国は全力を傾けるべきであり、その根拠規程を廃止する同法「改正」は完全な本末転倒である。
なお、民主党も5月23日、与党案に対抗して、「日本国教育基本法案」(前文、21条、附則)を発表した。その特徴は、自民党内でも要求の強い「日本を愛する心を涵養」「宗教的情操の涵養」を盛り込み、「不当な支配」を削除するなど、自民党以上に全体として保守色の強い内容といえよう。
(つづく)
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